メディア掲載  エネルギー・環境  2022.06.27

「脱炭素」なんて言っている場合か? 「脱ロシア」の次は「脱中国」だ 「ガス栓握る露」と「日本産業の喉元押さえる中国」は同じ

夕刊フジ(2022年6月13日)に掲載

エネルギー・環境

地球環境問題が国際的に注目されるようになったのは、1992年の「地球サミット」からだ。これが91年のソ連崩壊による米ソ冷戦終結と同時期なのは偶然ではない。

「世界全体が欧米型の民主主義に収斂して、平和が達成される」というユートピア的な高揚感のもと、地球規模で協力して解決すべき課題として、地球環境問題が大きく取り上げられるようになったのだ。

ところが、ユートピアは実現しなかった。経済成長した中国は、欧米が期待したように民主主義になるのではなく、ますます独裁色を強め、世界の覇権をうかがうようになった。急激な民主化に失敗して混乱したロシアは、強権的な国家に戻った。そして、ついにウクライナに侵攻した。

いまや「新しい冷戦」の始まりは明らかとなった。つまり温暖化問題を考える前提は、根本から変わった。もはや、「地球規模での協力による解決」など望むべくもない。

例えば、経済制裁はどうか。

いま日本の報道では、ロシアだけが世界で孤立しているような印象だが、現実は違う。制裁しているのはEU(欧州連合)、G7(先進7カ国)諸国のほかには、韓国、オーストラリアなど、わずかだ。

中国、インドに加えて、中東、東南アジア、アフリカ、南米などのほとんどの国は制裁していない。中国は多角的にロシアと貿易・投資を進めているし、インドはロシアから石油を割引価格で買いつけている。

世界の国々は、欧米の言うことをハイハイと聞くのではなく、みなそれぞれの国益で動いているのだ。この構図は、これからの「脱炭素」についても当てはまるだろう。熱心なのは世界の一部に留まるということだ。

さて、欧州がロシアのエネルギー、特に天然ガスにどっぷりと依存していたことが脆弱(ぜいじゃく)性となり、ロシアを好戦的にしてしまった。この代償は、ウクライナへの侵略戦争という破滅的なものだった。この日本への教訓は何か。

電気自動車(EV)を大量導入すると、どうなるか。バッテリーに必要なコバルト、モーターに必要なレアアースの生産は、いま中国が世界市場の大半を支配している。この状態は少なくとも今後5年程度は変えられない。

中国の重要鉱物に依存すると、何が起きるか。ロシアが欧州のガス栓を握っていたように、中国が日本産業の喉元を押さえることになる。中国は日本への経済的・政治的影響力を増すだろう。その状態で、台湾や沖縄県・尖閣諸島での万一の有事の際に、日本は強い態度に出られるだろうか。

最近まとまった日本政府の「クリーンエネルギー戦略中間整理」は、まず「脱ロシア」をしてから「脱炭素」などと、のんきなことを言っているが、安全保障への認識が甘すぎる。「脱ロシア」の次は「脱中国」こそが重要だ。