メディア掲載  グローバルエコノミー  2022.02.15

中国経済と「灰色のサイ」~不動産企業の債務問題に関する一考察~

月刊資本市場202112月号に掲載

国際金融 中国経済 中国

はじめに

2014年、習近平・李克強政権は「新常態への適合」という表現で、高度経済成長期が終わった中国の経済政策の軸を「量」から「質」に移す方針を示した。その翌年、同政権は「中高速度」での成長に安定して移行するために、「供給サイドの構造改革」の推進を宣言した。

当該改革の重点は、①過剰生産能力の解消、②企業負担の軽減、③不動産在庫の解消、④供給の拡大、⑤金融リスクの解消・防止に置かれたが、中国国内では、前政権の時代に経済制度改革が十分に進展しなかったとの見方が強かったこともあり(魏・王等、2015)、新たな改革への取り組みに大きな期待が寄せられた。ただし、改革の副作用として、経済の減速や余剰人員の整理が社会不安をもたらすことが懸念された一方、政府による激変緩和策の採用が企業のモチベーションを低下させる恐れや、補助金支給や景気下支えのための財政支出によって財政赤字が野放図に拡大するリスクなども懸念されていた(佐野、2016)。

実際、2016年と2017年は「三去(過剰生産能力、過剰不動産在庫、過剰債務の削減)、一降(企業コストの引下げ)、一補(弱点分野の補強)」が経済政策の重点課題とされたが、次第に副作用が表面化し始めた。さらに、2018年には米中経済摩擦の深刻化というマイナス要因も加わった。習近平・李克強政権は、改革の堅持を唱えつつも、安定を強く意識せざるを得なくなり、20187月には、「6つの安定」、すなわち、雇用、金融、対外貿易、外資、投資、期待を安定させる方針を決定した。

2020年の中国経済は、年明け直後から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延で大打撃を受けたが、同年4月の共産党中央政治局会議では、上記「6つの安定」に加え、「6つの維持(雇用、民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端組織運営の維持)」を経済政策の重点とすることが決まり、「復工復産(職場復帰・生産再開)」のための政策支援が実行に移された。COVID-19の抑え込みと経済政策が奏功し、中国経済は2020年第2四半期にはプラス成長に戻り、通年では実質+2.3%の成長となった(図1)。

一方、ここ数年、中国では部分的な動きではあるが、社債のデフォルト、不良債権の増加、シャドーバンキングの混乱、中小銀行の経営危機、不動産企業の債務不履行など、金融リスクが顕現化する兆しが現れている。今後、中国経済が社会の安定を確保しながら、「中高速度」の成長軌道に順調にシフトするためには、金融のリスク管理を適切に行える体制の整備が欠かせない。

本稿では、金融リスクを巡る諸問題のうち、2021年央以降、深刻さを増しつつある不動産企業の債務問題について、その背景を整理し、先行きを展望する。

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