メディア掲載  グローバルエコノミー  2022.01.28

生乳余剰問題、輸出で解決を

日本経済新聞夕刊【十字路】2022年1月19日に掲載

農業・ゲノム

数年前にバター不足が大きな問題となった。今回は、余った生乳が大量に廃棄される懸念が出たため、岸田総理が「牛乳を1杯多く飲んで」と異例の呼びかけをした。数年で生乳は不足から過剰になった。

牛乳(酪農)問題が難しい理由として、生乳を加工してできたバターと脱脂粉乳に水を加えると、牛乳に戻るという特殊性がある。バター分を調整するだけで、無脂肪牛乳から濃厚牛乳まで様々な加工乳が作られる。

生乳から、バターと脱脂粉乳が同時に生産されるが、それぞれの需要は異なる。2014年のように、脱脂粉乳が余らないようにすると、バターが足りなくなる。輸入で不足は解消できるのにバター不足が起きた。

国家貿易企業に貿易を独占させている農水省が、過剰輸入を恐れて十分に輸入しなかったからだ。逆にバターが不足しないようにすると、今回のように脱脂粉乳が余る。

いずれの場合でも、多く供給されたバターなどから加工乳が作られ牛乳全体の供給が増えると、酪農家の手取りとなる飲用向けの生乳価格が低下する。

農水省は、これを恐れて綱渡りの生産調整と輸入調整を行っている。今回は「1杯多く」だった。

しかし、お金のかからない、より効率的・効果的な需給調整の方法がある。北海道の牛乳の2割以上が関東に輸送されている。最近、地理的に離れたドイツ、ポーランド、ニュージーランドが、中国への牛乳輸出を急激に拡大させている。

九州の隣は上海だ。日本はよりフレッシュでおいしい牛乳を中国に供給できる。生乳が多く生産されると、輸出を増やし、少ないと輸出を減らせばよい。輸出を生乳需給の調整弁とするのだ。