メディア掲載  エネルギー・環境  2019.03.05

【人類世の地球環境】裾野の広い製造業基盤が温暖化問題を解決する

株式会社 オーム社 技術総合誌・OHM 2019年2月号に掲載

 どのような温暖化対策技術であっても、温暖化を直接の目的とはしない、多様な技術を組み合わせて利用することで作られる。そこでは、何らかの①部品・材料が用いられ、②加工され、③計測されて、④計算機が援用される。以下にいくつか見てみよう。

 ① 部品・材料

 風力発電機は、多くの部品からできている。それは、それぞれが得意とする部品メーカーによって供給されている。羽根(ブレード)は炭素繊維強化プラスチック(CFRP)でできているが、これは日本の化学メーカー等が供給している。CFRPは多様な用途に用いられている。自動車・鉄道・船舶、工業・建築等である。ナセルの中の軸受けは、やはり日本メーカー等が供給しているが、これは自動車部品製造による技術の蓄積が活用されている。

 液晶ディスプレイや、リチウムイオン電池はどうか。これらには、多くの機能性フィルムが積み重ねられている。機能性フィルムの役割は様々で、熱、光、水分、電気、分子などの透過・遮断、保護、接着等がある。

 液晶ディスプレイはブラウン管を置き換えて大幅な省エネをもたらした。リチウムイオン電池も、太陽電池も機能性フィルムを用いている。もちろん機能性フィルム自体は用途に応じて開発するが、製造工程は類似していて、1つのメーカーが多様なものを供給している。

 ② 加工技術

 切断・穴あけ・曲げ等の加工技術には様々あるが、ここではレーザー加工を見てみよう。材料加工用レーザーの用途には、金属の切断・溶接などのマクロ加工と、半導体・電子部品等のミクロ加工がある。今後、さらに高出力のレーザーを実現していくことで、フィルムや金属箔といった材料だけでなく、半導体材料、結晶基板、ガラス、セラミクス、CFRP等、様々な産業用材料の微細かつ高品位な加工が可能になる。レーザーによるミクロ加工は、情報機器の一層の小型化・高性能化をもたらす。これは同じ電力当たりでの計算量を増やすから、省エネになる。また、CFRP等の多様な材料の活用が可能になり、これは部品の軽量化を通じた省エネにつながる。

 ③ 計測機器

 世間一般で科学技術の研究というと顕微鏡のイメージがあるが、研究の過程においては、何か実験や試作をするたびに、顕微鏡のみならず多様な計測機器を用いて、物質の大きさ、温度、硬さ、その他多様な物理的・化学的な性質を測定し、ためつすがめつ観察することになる。またこのような計測は研究のみならず、工場での製品の品質管理においても必須である。半導体製造工程では、無数の微細加工技術が活用されているが、これは同じく電子顕微鏡等の無数の微細な計測技術に支えられている。逆に言えば、微細計測技術があって初めて微細加工技術が進歩し、それによる省エネも可能になってきた。

 ④ 計算技術

 現代の技術開発では、計算機が幅広く利用される。部品・材料の開発では、分子サイズでの第一原理計算から、プラントや製品サイズの強度の計算や空気抵抗の計算まで、様々なスケールでのシミュレーションが行われる。これによって、材料や製品の性質を理解し、その製造方法の検討や、性能向上が図られる。

 このように、温暖化対策技術と言っても、一皮むけば、温暖化を直接の目的とはしない多様な技術を組み合わせて利用し開発されてい。

 もっと一般的に言うと、諸技術は、生物のような「生態系」を成して進化する。すなわち、ある技術は、他の諸技術を組み合わせて利用することで生み出される。次いで、その新しい技術がまた利用されて、別の技術が生み出されていく。

 この時、生み出される技術がCO2を削減する技術である場合がある。CO2の削減技術というのは、諸技術が進歩していく中で、たまたま、ついでに起こることのようにも見える。

 もちろんこれは言い過ぎで、CO2を削減するための技術には、それに特化した技術開発が必要である。CFRPと言っても、船舶用途のものと風力発電用途のものは異なる。機能性フィルムも、他の用途のものがそのまま太陽電池に使えるわけではなく、新たに研究は必要だった。

 しかし一方で、仮に他産業でCFRPが発達していなかったら、風力発電用にそれが利用されるのは大きく遅れただろう。また、太陽電池の研究開発には、半導体産業やフラットディスプレイ産業で培われたあらゆる技術が活用された。今後どのような革新的な温暖化対策技術が生まれるにしても、裾野の広い製造業基盤がそれを支える。ここに日本の強み、そして使命がある。