メディア掲載  エネルギー・環境  2018.03.06

【人類世の地球環境】インド式の環境と開発見聞記

株式会社 オーム社 技術総合誌・OHM 2018年2月号に掲載

 ニューデリーの大気汚染は本当にひどかった。天気は晴れで雲はないのに薄暗い。外に出ると目はチカチカ、喉はガラガラする。自動車の排気ガスのせいらしい。政府は、2030年には内燃自動車の販売を禁止して電気自動車にすると言っている。だが、そんな悠長なことを言っていないで、ただちに排ガス規制をすべきであろう。排ガス処理の技術はとっくに確立しているし安価である。最近ようやく流行り出した電気自動車とはわけが違う。だが、その簡単な規制が、なぜか執行できないのがインドである。

 インド経済はずいぶん成長しているというから、ニューデリーも見違えるようになったかと思いきや、相変わらず貧しかった。貧しいといっても、一生懸命に働いているのに貧しい、といった悲惨な感じはしない。工事現場に行くと、10人に1人ぐらいがゆっくり作業していて、あとの人は座って話をしている。あんまり働いておらず、それなりに幸せそうだ。スマホで遊んでいる人も結構いる。10人に1人しか働いていなければ、1人当たりのGDPが10分の1になるのは当然だ。だが、こうして10人で1人分の給料を分けることで、皆が分配に預かるシステムにはなっている。先進国ではAIのせいで仕事が無くなるという心配をする人が増えているが、こうして仕事を分け合えば何の問題も生じない。インドは世界を先取りしているのかもしれない。

 働いている人も要領が良いとは言えない。空港にはホテルからの出迎えが大勢いる。だが、名前の札も作らずに、日本人とみると片っ端から声を掛けているドライバーが何人かいる。これでは白タクと区別がつかないので思わず避けたくなる。遺跡や商店街に行こうと思ってホテルで相談すると、「日曜日だからそこは閉まっている」とにこやかに断言する。ネットや観光ガイドにはそんなことは書いていないので、折角の忠告だが、断然信じないで現地に行ってみると、閉まってなどいない。こんなことがしょっちゅうある。悪気はまったくない。というより、皆とても愛想良くて親切だ。だがデタラメな助言をきっぱりとしてくれるのは、不慣れな人間にはかえって迷惑なのだ。

 車は車線を守らずに、3車線ぐらいのところに5台ぐらいの車が横並びで走って来る。道路を渡ろうとしても恐ろしくて渡れない。そもそも信号や横断歩道が滅多にないし、道を渡ろうとすると、クラクションを絶えず鳴らしながら車が突っ込んでくる。クラクションは絶えず鳴らしながら走るものと相場が決まっているようで、幹線道路沿いは、1日中プープーとクラクションの音がけたたましく鳴り響いている。どうやって地元の人が道を渡るかしばらく見学してみた。すると猛スピードで走る車をかわし、1車線分だけ前進して白線の上で立ち止まる。直前直後を何台かビュンビュン通りぬけてから、また1車線分だけ前進して次の白線上で止まる。広い通りだと、これを5~6回くり返して、ようやく反対側に着く。筆者には恐ろしくて出来ない。

 インド人には優秀な人が沢山いる。国際会議では、インド系の優秀な人にしょっちゅう出会う。アメリカのシリコンバレーの技術者の3分の1はインド系で、高級住宅街に住む彼らは、裕福なアメリカ人とまったく変わらない生活を送っている。

 日本も、戦後しばらくはカミカゼタクシーが暴走し、通りはゴミだらけで、荒っぽく汚なかったが、今ではすっかり良くなった。インドも、いつかは大人しくなるのだろう。そろそろかな、と思って、高級住宅街のハウスカズやグリーンパークに行ってみると、閑静で落ち着いた感じになっていた。といっても、まだ今の日本の基準でいえば、公園の手入れは行き届いておらず、ゴミだらけだったが・・・。高層ビルが立ち並ぶグルガオンも、ビル地下のスーパーは、まあまあ綺麗なものだった。外を歩こうとすると、舗装が悪くてぬかるみだらけだったり、車にひかれそうになったりしたが、それでも周辺とは別世界である。幹線道路沿いでは人々がポイポイとゴミを捨てるので、ゴミで山や谷ができている。そのゴミを、野良犬や豚や人があさっていた。

 タクシーはメーターを使わずに適当に料金をふっかけてくる。だが、グルガオンまでの地下鉄はきちんと機能していて、乗客の振る舞いも日本並みに大人しかった。ただし、咳やくしゃみを遠慮なくされるのは嫌だったが・・・。それでマスクをして乗っていたら、具合悪い人だと思ったのか、首をくいっと独特の角度でひねって、親切に席を譲ってくれた。また来るときまで、皆元気でね。