メディア掲載  エネルギー・環境  2017.10.17

温暖化対策に逆行する脱原発と再エネ大量導入-CO2排出削減で各国のあべこべな政策-

エネルギーフォーラム EP REPORT 第1899号に掲載

 2050年ごろをめどとしてCO2などの大幅排出削減を目指す、地球温暖化対策の「長期戦略」の検討が内外で進んでいる。そこでは、エネルギー需要の電化と電気の低炭素化の両方が必要とされている。だが足元で起きていることは、脱原発や再生可能エネルギーの大量導入であり、これは大幅な排出削減という方針に逆行している。



電化と低炭素化が対策の柱

 パリ協定では、20年までに地球温暖化対策の「長期戦略」を事務局に提出することを諸国に招請している。これを受けて、米国、英国、フランス、ドイツなどが、おおむね現状から80%程度のCO2などの排出削減を進めることを目標として、長期戦略の策定を進めてきた。その内容はだいたい似通っている。そしてどの国でも、電気の低炭素化と、電化の推進(最終エネルギーにおける電力の割合の増加)が、その主要な柱となっている。

 これは国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)や国際エネルギー機関(IEA)などの国際機関による世界規模での温室効果ガス排出削減のシナリオでも同様になっている。これらの試算では、世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて2℃未満に抑えるためには、世界規模の温室効果ガス排出を50年ごろまでには半減し、2100年までにはおおむねゼロとしている。やはり、その重要な手段が電気の低炭素化と電化となっている。

 このように、長期的な地球温暖化対策として、電気の低炭素化に加えて電化が必要なことは、さまざまな立場を超えて、世界のコンセンサスとなっている。



再エネ大量導入で料金高騰

 ところが足元の諸国の政策を見ると、あべこべである。再エネの大量導入は、CO2などの排出削減にはなるものの、深刻な電力価格の高騰を招き、電化という戦略に逆行している。日本では再エネ賦課金が既に1kWh当たり2.64円に達し、今後も上昇が見込まれている。ドイツでの再エネ賦課金は同7ユーロセント近くに達している。これでは電化が進むどころか、まるで電力離れを促進しているかのようである。

 「長期戦略」を見ると、諸国は今後も再エネの導入を拡大していくとしている。確かに再エネのコストは、大幅に下がってきている。しかしなお、相当に条件の良い場所でない限り、そのコストは、いまだ石炭や天然ガスの火力発電などの既存の電源に比べてかなり高い。かつ、再エネのシェアが増すにつれて、その間欠性という欠点が目立ち、系統との連携の問題がますます深刻になってくるので、これは今後のコスト増大要因となる。再生可能エネルギー導入の拡大を長期的に目指すという大方針には異論は無いが、系統の安定化を含めた技術開発をまず進め、コスト低減を図り、電力価格が高騰しないよう、普及拡大は慎重に進める必要がある。



原発は競争力を失ったか

 脱原発の動きも、地球温暖化対策に逆行している。ドイツは脱原発を決め、フランスも原子力発電の割合を低下させるとしている。日本の再稼働も遅々として進まない。

 原子力発電はいずれにせよコスト競争力を失った、という意見がある。だが、そうではないことをデータで示す論文がある。確かに、米国、フランス、そして日本などでは、安全規制の強化によって原子力発電のコストは高騰し、特に米国では禁止的な水準に達した。だが、韓国、インドでは価格は高騰していない。ロシア、中国はデータが不十分でよく分からないが、同様ではないかとされる。

 先進国で原子力のコストが上昇したのは、規制のためである。原子力発電の技術自体は、もちろん進歩はするが退歩などしないので、ほかの技術と同様に、コストは長期的には低下する傾向がある。課題はバランスの取れた規制の在り方であって、原子力発電技術だけはコストダウンが進まない、などと言うことではない。



再エネの性急な導入は逆効果

 最近ブームの電気自動車(EV)はどうか。これも、先進諸国は競って優遇策を講じている。購入への補助金、混雑規制の例外規定、充電の無料化などである。だがこれらの優遇策は、EVの台数が少ないうちは可能だが、導入が拡大していくならば、いつまでも続けられるわけではない。それに、電化は運輸部門だけでなく、業務部門や産業部門でも進めていかねばならない。それらすべてに補助金を出し続けるということもあり得ない。結局のところ、電気料金の全体の水準が高騰しないようにすることが、長期的に見て、電化促進策の重要な柱となる。

 IPCCやIEAの数値モデルでは、再エネの導入量は外生で与えていて、エネルギー需給全体の低炭素化はモデル内では均一な炭素税を仮定して計算するのが普通である。これがモデルでは最も簡単な方法だからだ。ところが、このモデル化では、実は再エネの普及策は電力価格の高騰で賄われているというリンクが捨象されてしまっている。

 もしも再エネの大量導入イコール電力価格高騰という、現実世界にいて観察されているリンクがはっきりモデル化されるならば、性急な再エネの大量導入は地球温暖化対策に逆行する、という結果が得られるはずだ。これは難しい計算ではない。