メディア掲載  外交・安全保障  2017.09.27

デカップリング(切り離し)-米と同盟国 信頼の揺らぎ-

読売新聞2017年9月25日に掲載

 北朝鮮は7月に大陸間弾道弾ミサイル(ICBM)級の能力を持つ「火星14」の試射を2度にわたり実施し、9月には160キロトンの爆発規模と推定される水爆の実験を成功させた。金正恩朝鮮労働党委員長が北朝鮮の核開発の最終目標は「米国との実質的な力の均衡の達成」だと述べたように、北朝鮮は米国に対する核抑止力の確立に邁進している。その終着点を米国本土を射程に収めた核搭載のICBM実戦配備と捉えている可能性が高く、現在の開発ペースから考えれば実現は間もなくであろう。

 北朝鮮が米国本土に核攻撃できる段階に至るとき、同盟国である日本や韓国の安全保障にも深刻な影響を及ぼす。「米国はロサンゼルスを危機に晒して東京やソウルを守るのか」という問題を生じさせるからである。米国が北朝鮮からの核攻撃を恐れ、同盟国である日本や韓国に対する防衛を躊躇する構図である。これが同盟の「デカップリング」(切り離し)問題の典型だ。

 米国内では次善の策として北朝鮮との交渉でICBMの開発・配備を凍結させ、米本土の安全をひとまず確保すべきという主張も散見される。しかし同盟国が北朝鮮の軍事的脅威に晒される中、米本土の安全を優先した交渉は同盟国の不信を高めることになる。さらに北朝鮮は米国との同盟関係を理由に日本や韓国に対する核攻撃の恫喝を強め、日韓両国内における同盟への不安をさらに煽ろうとするだろう。こうした同盟の分断こそが、デカップリング問題のもう一つの典型である。

 冷戦史を振り返れば、北大西洋条約機構(NATO)の要である米欧関係にもデカップリング問題は付きまとっていた。とりわけ1970年代にソ連により中距離核戦力(INF)が配備された際、欧州諸国は「米国はニューヨークを犠牲に欧州諸都市を守るのか」と疑念を強めた。結果としてNATOは米国のINFを欧州に対抗配備して米欧の同盟関係を繋ぎとめ、同時にソ連に軍縮を呼びかけるという「二重決定」をした。これが後のINF全廃条約(1987年)に帰結したという教訓がある。

 北朝鮮の核・ミサイル開発はデカップリング問題を顕在化させつつある。この問題を解消するには、北朝鮮のめざす「米国との力の均衡」や米国と同盟国の分断は容易に実現しないことを示す必要がある。そのためには米国が北朝鮮の核・通常戦力に対する圧倒的な優位性を維持し、米本土防衛と同盟国に対する安全保障の傘(=拡大抑止)に切れ目を生じさせず、そして同盟国がミサイル防衛をはじめとする防衛力強化を図り、米国と同盟国とのシームレス(切れ目のない)な安全保障態勢の深化と政治的信頼が不可欠である。