論文  財政・社会保障制度  2017.09.11

地方税徴収の庁舎外での電話催告への挑戦-奈良県市町村税納税コールセンターの取り組み-

月刊『税』(株式会社ぎょうせい)2017年9月号に掲載

はじめに


 米国のオクラホマ州で、電話催告や文書催告などの滞納整理業務の一部を民間事業者に委託している事例を筆者が日本に紹介したのは、本誌の2004年8月号であった。その後、大阪府堺市にコンサルティングに入り、堺市は2005年11月から市税コールセンターを開始した。それから早10年、今では、コールセンターを自治体内に設置し、民間委託している自治体は多い。総務省の調べによると、平成28年7月時点で186自治体が実施している。

 当時の筆者が成し遂げることは、堺市の市税コールセンターを確実に成功させることであった。そのために、堺市の弱点をカバーしつつ、効率性よりも確実性を重視し、考えられるリスクは徹底的に排除した。その結果、理想的なものではなく、まずは小さく確実に開始することとし、庁内に5ブースを設置することから始めた。1200万円の委託費に対して、5か月で3億円を徴収した。

 それが日本のスタンダードになったために、日本の地方税のコールセンターのほとんどは庁内に設置されてきた。しかし、費用対効果の観点からいえば、庁内に設置するよりも、民間事業者のコールセンターで電話催告する方が効率的である。庁内に設置すれば、新たに設置費用が必要となるが、民間事業者の所有する既存のコールセンターから架電すれば設置費用は必要ない。

 自治体が庁内にコールセンターを設置する最大の理由は、税情報の情報漏えいの懸念である。公務員は、地方税法第22条や地方公務員法第34条第1項で、情報漏えいの罰則が明確に規定されているが、民間事業者は対象ではない。特に地方税法第22条は、地方公務員法よりも罰則が重いため、税情報を外部に持ち出すことをタブーとしてきた。しかし、本誌2016年1月号で、住宅使用料や、保育料、介護保険料、授業料、水道料金、医療費などの私債権については、すでに民間事業者の所有するコールセンターで収納代行業務として架電されていることは紹介した。

 堺市の時は、効率性よりも確実性を重視したが、費用対効果の点から、筆者は長年、民間事業者側のコールセンターで架電することを推奨してきた。昨今の自治体の財政難において、効率性の観点は必須だと考えているからである。民間事業者のコールセンターで安全に確実に電話催告できるようになれば、効率性が高まるだろう。 本稿で紹介する奈良県市町村税納税コールセンターは、委託したいと望む自治体を募り、民間事業者のコールセンターで電話催告するという先進的な取り組みである。地方税の税情報を外部に持ち出し、電話催告した本格的な取り組みは初めてであるため、奈良県の事例を紹介する。...


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