メディア掲載  財政・社会保障制度  2015.12.14

医療費の自己負担率を疾病別に:実態調査で試算 公的医療保険改革のコアは給付範囲の哲学の見直し(2)

 前回のコラム「公的医療保険改革のコアは給付範囲の哲学の見直し(1)」を参考に、疾病別の自己負担を導入し、公的医療保険の給付範囲の見直しを行ってみよう。

 まず、大雑把な医療費の分布を把握するため、厚労省「医療給付実態調査」(平成25年度)の第6表を利用し、入院外と入院の医療費の分布を確認する。

 入院外の医療費(診療報酬)の点数分布は以下の図表1の通りである。


図表1:入院外に関わる点数分布

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(出所)厚労省「医療給付実態調査」(平成25年度)第6表から筆者作成


 入院外の分布を見ると、「500点未満」が全体の39.0%、「500点以上1000点未満」が27.9%、「1000点以上2000点未満」が19.7%で、2000点未満が合計86.6%を占めている。これは、入院外の場合、1件の医療費が2万円未満である診療が全体の約85%を占め、全体の約40%が5000円未満の診療であることを意味する。診療報酬は基本的に「1点=10円」だ。

 他方、入院の場合は異なる。図表2が入院の医療費(診療報酬調剤報酬)の点数分布である。


図表2:入院の医療費の点数分布

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(出所)厚労省「医療給付実態調査」(平成25年度)第6表から筆者作成


 入院の分布を見ると、「20000点以上30000点未満」が全体の11.7%、「30000点以上50000点未満」が27.9%、「50000点以上80000点未満」が19.8%、「80000点以上」が15.9%で、20000点以上が合計75.3%を占めている。これは、入院の場合、1件の医療費が20万円以上であるケースが全体の約75%を占め、80万円以上であるケースも15.9%も存在することを意味する。診療報酬等も基本的に「1点=10円」である。

 このため、公的医療保険が担う基本的役割を堅持しつつ、財政再建を行うため、自己負担を引き上げる場合、最初に引き上げの検討対象となるのは、入院外の医療費であろう。



入院外の医療費の分布を見る


 次に、入院外の医療費(診療報酬)の点数分布を疾病別で見ると、どのような分布をしているのだろうか。第6表のデータから、この分布をみたのが、以下の図表3である。なお、図表の縦欄は入院外の診療報酬の点数範囲を表す。また、横欄は疾病分類ごとの医療費(診療報酬)の点数分布の割合を表し、図表1・2と同様、その合計は100%となる。

 図表3の「3000点以上5000点未満」の欄で、10%以上の数値を取っているのは疾病分類では「新生物」のみで、それ以外の疾病は6%未満の数値となっている。


図表3:入院外の医療費の点数分布1

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(出所)厚労省「医療給付実態調査」(平成25年度)第6表から筆者作成


 さらに、「3000点以上5000点未満」の欄において、「眼及び付属器の疾患」「皮膚及び皮下組織の疾患」「呼吸器系の疾患」「耳及び乳様突起の疾患」「周産期に発生した病態」「妊娠,分娩及び産じょく」「感染症及び寄生虫症」は3%未満の数値となっている。

 このため、図表3のうち、「新生物」を「高リスク」、「眼及び付属器の疾患」「皮膚及び皮下組織の疾患」「呼吸器系の疾患」「耳及び乳様突起の疾患」「周産期に発生した病態」「妊娠,分娩及び産じょく」「感染症及び寄生虫症」を「低リスク」、それ以外の疾病を「中リスク」と位置付けることにする。



疾病ごとに自己負担を変えて試算


 以上の前提の下、厚労省「平成25年 国民医療費の概況」のデータを利用し、疾病ごとに自己負担を変化させた場合、医科診療部分の自己負担の総額がどう変化するか簡易推計してみよう。

 まず、現行制度の年齢別の自己負担(例:現役3割、70歳~74歳2割、75歳以上1割)の下、一定の仮定を置き、医科診療部分の自己負担や医療給付費を簡易推計すると、以下の図表4の通りとなる。


図表4:入院外の医療費の点数分布2

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(出所)厚労省「医療給付実態調査」(平成25年度)第6表から筆者作成


 他方、年齢によらず、入院の自己負担を一律2割とし、入院外の疾病で高リスクの診療の自己負担を2割、中リスクの自己負担を4割、低リスクの自己負担を6割とする設定の下、医科診療部分の自己負担や医療給付費を簡易推計すると、以下の図表5の通りとなる。


図表5:入院外の医療費の点数分布3

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(出所)厚労省「医療給付実態調査」(平成25年度)第6表から筆者作成


 図表4と図表5から読み取れることは、現行では3兆5931億円と見込まれる医科診療部分の自己負担の総額が、疾病別の自己負担に変更すると4兆5520億円になり、約1兆円増加することである。

 約1兆円の自己負担の増加は、その分だけ医療財源に余裕をもたらすことを意味する。大雑把にいうと、「国民医療費の総額=医療給付費+自己負担の総額」となる。医療給付費は保険料収入と公費である税金等で賄っている。国民医療費が一定で自己負担の総額が増加すると、その分だけ、医療給付費が減ることになる。

 実際、図表4と図表5を見比べると、医科診療部分の医療給付費は25兆1516億円から24兆1927億円になり、約1兆円減少している。

 また、図表6は、入院の自己負担を一律2.5割とし、入院外の疾病で高リスクの診療の自己負担を3割、中リスクの自己負担を5割、低リスクの自己負担を7割とするケースでの医科診療部分の自己負担や医療給付費の推計結果である。


図表6:入院外の医療費の点数分布4

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(出所)厚労省「医療給付実態調査」(平成25年度)第6表から筆者作成


 この簡易推計によると、現行では3兆5931億円と見込まれる医科診療部分の自己負担の総額が5兆5856億円となって約2兆円増加する一方、医療給付費は25兆1516億円から23兆1591億円となって約2兆円減少する。



「1点=10円」とする診療報酬のあり方を見直す


 なお余談であるが、基本的に「1点=10円」とする診療報酬のあり方も再考の余地がある可能性がある。というのは、診療報酬について、高齢者の医療の確保に関する法律(高確法)第14条に、診療報酬の特例に関する規定があるためである。

 具体的には、「厚生労働大臣は、医療費適正化計画に関する評価の結果、医療費適正化を推進するために必要があると認めるときは、1つの都道府県内の診療報酬について、他の都道府県と異なる定めをすることができる」旨の規定である。

(診療報酬の特例)
第14条 厚生労働大臣は、第十二条第三項の評価の結果、第八条第四項第二号及び各都道府県における第九条第三項第二号に掲げる目標を達成し、医療費適正化を推進するために必要があると認めるときは、一の都道府県の区域内における診療報酬について、地域の実情を踏まえつつ、適切な医療を各都道府県間において公平に提供する観点から見て合理的であると認められる範囲内において、他の都道府県の区域内における診療報酬と異なる定めをすることができる。
2 厚生労働大臣は、前項の定めをするに当たつては、あらかじめ、関係都道府県知事に協議するものとする。

 この高確法第14条の規定はこれまでに一度も活用されたことがないが、骨太方針2015は、「この特例規定の活用の在り方について検討する」としている。

 このため、医療費の適正化を推進する観点から、制度上、「診療報酬を地域別に1点=9円にする」といった方法を検討することも可能なのだ。介護報酬では既に地域区分ごとに異なる点数が設定されている。

 基本的に、診療報酬が上がれば自己負担も増加する、診療報酬が下がれば自己負担も減少するという関係をもつ。上記のような疾病別の自己負担への変更のみでなく、柔軟な発想で地域別の診療報酬のあり方についても検討してみてはどうだろうか。