論文  財政・社会保障制度  2015.05.12

地方税務行政の運営のあり方と今後の方向性について

『地方税』(地方財務協会)2015年4月号に掲載

はじめに

 本稿では、IT化と自治体職員減少が進む今後に向けて、自治体の税務行政を見聞きし感じてきたことをふまえた上で、今後の地方税務行政の運営について述べていく。

 2015年は、地方税務行政を取り巻く環境が大きく変わる。4月からは生活困窮者自立支援制度が施行され、自治体が税務データを活用する機会が増える。10月には、いよいよマイナンバーが通知される。昨年6月の「規制改革に関する第2次答申」では、地方税に対して、「電子的手段による通知の促進」や「金融機関に対する照会取引の一元化」などが要望されており、いずれ検討せざるを得ないだろう。これらの要望や新制度は、税務行政や自治体行政の運営の中から非効率であったり、もっと進化できると思われたりしたことに対して、国や自治体、民間企業、住民からの生の声から生まれたものである。今後は、このような業務プロセスに関する要望はますます増え、租税理論やあるべき姿からのアプローチだけでなく、運営上の効率化、生産性の向上からみた見直しが増えるだろう。これらの要請はITの技術進歩によって実現可能になったことにも由来するが、少子高齢社会が進む中、自治体職員が徐々に減少しているために、効率的に成らざるを得ない状況からきているともいえる。

 自治体職員の数は減少している。1994年には住民1,000人あたり9.37人の職員(教員・警察・消防を除く)が配置されていたが、2010年には7.31人に減少している。バブル崩壊後、新規採用を控えていた自治体は多く、これからも減っていくと予想される。職員の数が減少するということは、少子高齢社会が進む中、以前よりも少ない人数で増え続ける住民ニーズに応えていかなければならない。税務部門では、納税者や滞納者に対する通常業務だけでなく、たとえば生活困窮者自立支援業務のように、全庁的に連携しながら税務部門として自治体に貢献しなければならない業務も増えていく。マイナンバーが稼働すれば、税務データの重要性が高まり税収確保のためのデータ捕捉のみならず、行政の基幹情報としてより精緻な情報把握が必要になるなど、業務はますます増えるだろう。地方創生のスローガンのもとでは、各種施策を実行するために必要な財源となる税徴収を担う税務部門への期待は高まるだろう。しかし、人間が24時間365日でやれることは限られている。これから先、税務部門にどれだけの人員が配置されるのだろうかと考えても、そう簡単に増えるとは考えにくい。当然、税務職員の働き方も変わっていくことが期待される。というよりも変わらざるを得ないだろう。

 だが、マイナンバー導入のように取り巻く環境が大きく変化し、地方税務行政の役割や存在意義が拡大していくような時は、税務部門が業務改革を行う絶好のチャンスである。効率性を高めて生産性が上がるように、マイナンバーや新制度の導入を上手に活かし、業務の再設計とIT化を進めることである。いつでも効率よく身軽に業務をできるようにしておけば、一層の税情報把握に対する業務量の増加や職員の減少にも耐えることができる。全庁的な重要施策やコア業務に職員を手厚く配置することになっても、柔軟に対応できるようになる。

 再設計が必要な業務について、①課税段階、②収納段階、③滞納整理・滞納処分段階に分けて考えてみよう。①課税段階で再設計した方がいいのは、個人住民税の特別徴収である。②収納段階は、携帯電話を使った納付環境を整えることである。そして金融機関との連携を進め、庁内で自動消し込みできるように再設計することである。また、口座振替、コンビニ収納、クレジット収納と収納チャネルはできたが、より浸透させるには、指定金融機関やクレジット会社との手数料について検討した方がよいだろう。③滞納整理・滞納処分段階では、徴収の一元化や広域化は進んできているが、さらに効率化するには、金融機関と連携して電子差押を行うことと、プロファイリング可能なデータベースを作成することである。そして、地方税務行政がより進化するためには、法改正が必要な場合があるが、日本の法制度は戦後に数多く制定されており、煩雑になっている。法改正の作業を確実に進めるためには、法令の構造(アーキテクチャー)が分かるデータベースを構築するのがよい。そうすれば、法改正のときに、この法律のここを変えたら、ここも変えなければならないということをITが教えてくれて、取りこぼしなく包括的に作業を進めることができる。

 本稿では、上記で述べた再設計が必要な業務のうち、地方税務行政を取り巻く環境変化沿って再設計するのが望ましい、個人住民税の特別徴収の再設計、電子差押、プロファイリングデータベースや法令アーキテクチャーなどのデータベースの作成について述べていく。...


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