メディア掲載  国際交流  2012.12.06

対米・対中外交と世界経済への新たな貢献の形~インテリジェンス、防衛力バランス、歴史教育に注力を~

JBPressに掲載(2012年11月21日付)

 野田佳彦総理が解散を決断した。選挙はやってみなければ分からないが、現在の支持率の低さから見て、民主党が従来通り衆議院で過半数の議席を確保するのは極めて難しいと考えられる。民主党単独過半数の時代は終わり、新たな時代に移行する可能性が高い。


◆民主党の3人の総理はいずれも外交で躓いた

  民主党政権は2009年9月から3年余りの間に、鳩山由紀夫総理(2009年9月~2010年6月)、菅直人総理(2010年6月~2011年9月)、野田総理(2011年9月~現在)の3人が総理大臣に就任したが、3人とも任期中に外交で躓いた。
 鳩山総理は米軍の普天間基地移設問題について、少なくとも県外に移設すると発言したが、結局移転先が見つからず、問題は宙に浮いたままになっている。これがネックとなり、日米協力関係は長期間にわたって膠着した。
 菅内閣は中国の漁船が日本の海上保安庁の巡視艇に衝突した事件に際して、中途半端な対応を取り、内外から批判を浴びた。中国は対抗措置としてレアアースの対日輸出を厳しく制限し、通関手続きも止め、多くの日本企業が苦しめられた。
 そして野田内閣は尖閣諸島を国有化したため、同島の領有権問題が表面化。日中関係は国交正常化後40年の歴史の中で、最悪の状況に陥った。


◆外交関係の悪化が経済に与えるダメージはますます拡大

  このように3人の総理は、いずれも日米関係、日中関係に深刻なダメージを与え、外交・防衛、経済面において日本の国益に大きな損失をもたらした。
 もし日米関係が良好であれば、この3年余りの間に日米両国がアジアを舞台に政治経済両面で幅広い協力プロジェクトを展開できていたはずである。普天間問題はそのチャンスを奪った。
 日中関係の悪化が与える影響はさらに大きい。中国における日本企業の製品・サービスへの信頼は高く、中国人の所得水準の上昇に伴い、根強い需要は引き続き拡大していくと考えられる。
 中国事業から得られる利益が年間1000億円を超える企業も増えつつあり、企業経営全体にとって中国市場の重要性はますます高まっている。来年以降も、中国事業の収益が増加し続ける可能性は高く、将来再び日中間の深刻な摩擦が生じれば、日本企業のダメージは今回以上に大きくなる。
 言うまでもないが、対米・対中外交関係が日本の国益に与える影響は非常に大きい。


◆東アジアが世界経済をリードする時代の到来

  ここで中長期的視点から日本経済の進路を考えてみたい。
 欧州は財政金融不安問題に苦しみ長期停滞が続くほか、米国も「財政の崖」の問題に直面するなど、順調な景気回復は望めない。日本として頼りにすべきはアジアである。
 ちょうど来年は、日中韓3国のGDPの合計が四半期ベースで初めて米国を上回る年になりそうである。再来年になれば通年ベースでも米国を大きく上回る見通しである。この東アジアの発展こそが日本にとって最大のチャンスである。
 東アジア経済発展の軸は日中両国のウィン・ウィン関係である。日中関係が安定を保ち、中国が改革開放政策を堅持し、日本企業が中国各地に進出して地域の税収と雇用の増大に貢献すれば、中国は安定的に経済発展を続け、日本企業は中国市場での収益を拡大する。
 数年前までこうした姿は遠い将来の夢物語と思われていたが、今やそれが現実のものとなっている。このため日中関係が過去最悪の状況にあるにもかかわらず、中国の地方政府は日本企業誘致に対して非常に積極的である。
 それは日本企業の対中直接投資のプレゼンスが先進国の中で群を抜いており、地方の税収と雇用を支える外資の中核的存在が日本企業となっているからである。


◆日本が果たすべき新たな形の世界経済への貢献

 以上を前提に、今後日本が担うべき2つの役割が考えられる。
 第1に、アジア経済発展のリード役である。当面、米国経済も欧州経済も自力での回復は難しい。もちろん日本1国の力ではどうにもならない。
 しかし、日中韓3国が協調発展し、それがアジア全体の発展をリードすれば、欧米諸国にもプラスのインパクトを与えることができる。その展開の中で日本の果たす役割は重要である。
 第2に、米国と東アジアの橋渡し役である。米国とのTPP交渉に参加して日本の貿易投資に関する障壁を低くすれば、日中韓FTA交渉においても、TPPの成果を前提として、より柔軟かつ積極的に貿易投資促進の枠組み作りに取り組むことができる。
 日米関係から生まれた新たな成果を東アジアの経済発展のために生かすことが可能となる。その橋渡し役こそ日本が果たすべき役割であり、世界経済への新たな貢献の形である。


◆次期政権への期待:インテリジェンス、防衛力、歴史教育

 そうした日本の外交政策と経済発展の両立を図るために、次期政権に期待したいことが3つある。
 第1に、インテリジェンス(情報収集力)の強化である。過去3年余りの民主党政権において、対米・対中外交において適切な対応を取れなかった3つの出来事に共通の問題がある。
 それは相手国の受け止め方に対する認識不足である。日本政府が外交上の措置を取る際、相手国がそれをどのように受け止め、日本に対してどのような反応を示すのかについて、予め的確な認識を持っていれば、3つの出来事はいずれも対応の仕方が違ったはずである。
 それができなかった理由は、相手国の政治状況や国内事情に関する情報不足、あるいは総理および閣僚の高度な外交判断能力の不足である。
 日常的に国家安全保障会議のような場において総理、外相、防衛相、財務相、官房長官らが、専門家を交えて主要相手国に関するインテリジェンス情報をタイムリーに共有し、外交・経済政策を総合的に判断する場があれば、判断力は自然に研ぎ澄まされる。
 また、日米、日中間においてどんな状況下でも信頼し合ってフランクな意見交換ができる有力政治家間の個人的な太いパイプの構築も極めて重要である。
 第2に、防衛力バランスの保持である。米国は今後、厳しい財政事情により防衛予算の大幅削減を余儀なくされる可能性が高い。アジア回帰政策の下でアジア関連予算の比重が相対的に引き上げられるとしても、予算規模全体の削減幅が大きければ、アジア関連予算も減少する。
 一方、中国は2020年前後までは高度成長が続く可能性が高く、経済成長に応じて軍事予算の拡大、軍事力の強化が続く見通しである。
 ここで日本が何もしなければ、西太平洋の防衛力バランスは徐々に崩れていく。これを放置すれば、東アジアの安全保障上の緊張は高まる。日本としては少なくとも防衛力バランスが崩れないようにする努力が必要である。
 もちろん日本だけの力では無理である。日米同盟を軸に韓国、豪州、フィリピン等との連携を強化し、防衛予算の増加を最小限に抑えながら、防衛力バランスを保つ努力を継続することが求められる。
 第3に、歴史教育の見直しである。日本人の多くはアジア諸国との歴史問題に無関心である。その主な原因は小中学校の歴史教育の不備にある。
 学校で日本史を学ぶ際に、江戸時代以前の歴史に多くの時間が割かれ、日本がグローバルな世界の中で大きく変化をしていく明治維新から第2次大戦に至るまでの歴史が軽視されている。これが日本人の世界史的な視点の欠如、国際社会、とくにアジアに対する無関心の根源的理由である。
 学校での歴史教育を抜本的に改め、1学期に江戸時代以前を終え、2学期は明治維新から敗戦まで、3学期は戦後を教えるようカリキュラムと教科書の抜本的見直しが必要である。
 以上の3点の取り組みを通じて、日米・日中外交関係の緊密化と東アジアの安定確保を土台とする経済発展に対して、日本政府が積極的な役割を果たしていくことを期待したい。