コラム  国際交流  2009.08.03

地域で進む中国経済の構造変化

 中国の第2四半期の実質GDPは7.9%に達しました。輸出(ドルベース)は第2四半期前年比 −23.5%と相変わらず大幅なマイナスが続いています。これに対して、固定資産投資(名目)は1〜6月累計で同+33.5%と極めて高い伸びを示しています。1〜3月累計が同+28.8%であったことを考慮すれば、4〜6月だけを取り出すと40%近い伸びに達していると考えられます。また、消費(名目)も同+15%と堅調に推移しています。固定資産投資も消費も名目ベースであり、この間のPPI(4〜6月同−7.2%)、CPI(同−1.5%)がマイナスであることを考慮すれば、実質ベースではさらに高い伸びになっています。

 以上のように輸出が大幅に前年を下回っているにもかかわらず、内需が強い背景について、前月のコラムでは、固定資産投資のとくに高い伸びが工業生産を押し上げている2つの地域(環渤海経済圏と広西北部湾経済圏)を紹介しました。今月は少し観点を変えて、産業構造の変化が成長率を下支えする2つの地域を紹介したいと思います。

 1つ目は輸出依存型沿海部の広東省における変化です。広東省では昨年5月以降、広州・深センを中心とする珠江デルタの労働集約型産業を広東省の東西両翼地域および北部山地に移転することを促進しています。そのために移転先地域において大規模工業団地を建設し、そこで周辺の農業労働力を活用し、省内の農業労働人口が第2次、第3次産業へと転換することを目指しています。その一方で、広州市では日系の日産、ホンダ、トヨタを中心に自動車産業の集積を推進しています。同時に来年11月に当地で開催されるアジア大会を控えて、市内の交通、オフィスビル街等のインフラ建設が急ピッチで進んでいます。また、輸出不振に苦しむ東莞市(広州市と深セン市に隣接)においては、輸出加工企業の中国国内販売向け企業への転換を促進するため、広東省政府が本年6月に中国国内市場に販売網を持つ内需型企業を500 社以上招聘して製品展示会を実施しました。同政府では多角的な政策の組合せにより、輸出依存型の産業構造を内需型へと転換させようとしています。こうした政策の効果から、広州市では自動車産業や不動産関連が下支えとなり、成長率が全国平均を上回っています。これは北京市や上海市の成長率が全国平均を大きく下回っている状況と対照的です。

 2つ目は内陸部に新たな産業集積の形成を目指す重慶市を中心とした変化です。国務院は本年1月、両江新区(重慶市内の長江と嘉陵江に挟まれた地域)を中心に、重慶市を国家級重点開発区として位置づけました。今後重慶市は成都、西安、重慶の 3都市を核とする「西三角」(西部デルタ)と呼ばれる新たな経済圏をリードする役割を担うことになります。重慶市の主要産業は自動車、石油化学、設備関連といずれも内需関連です。上海市や広東省の輸出(2008年)の対GDP比率が80%前後であるのに対し、重慶市は同7.3%と輸出のウェイトが小さいため、輸出減少の影響は軽微です。これは成都、西安も同様です。重慶市政府では現在、新たな経済開発区を中心とする産業集積の形成に適した具体的なインフラ整備計画を策定中です。今後中長期的なインフラ建設が進んでいくにつれて、固定資産投資の誘発効果も生じることから持続的な成長率の押上げが予想されます。

 以上のように、広東省の内需型への構造転換は輸出の大幅減少が続く中、そのショックを和らげる効果をもつ一方、重慶市を中心とする西部デルタの形成は内陸部初の大規模産業集積地の形成により内陸部主導の内需拡大を一段と促進する効果を持ちます。いずれも短期的にはインフラ建設投資の増大、中長期的には大規模な産業集積の形成促進を通じて中国の経済成長率押上げに寄与します。

 以上に関して、もう少し詳しい内容は、「輸出依存型の広東省と内需型の重慶市の経済状況」〜広州・重慶現地取材報告〜をご覧ください。

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「輸出依存型の広東省と内需型の重慶市の経済状況」~広州・重慶現地取材報告~