メディア掲載  2024.04.19

【数字は語る】金融政策は「普通」に戻る 日銀見通しの上下リスクを中立的に評価する運営に期待

週刊ダイヤモンド(2023年5月20日発行)に掲載
須田 美矢子

2013年1月から241月までの実質賃金(現金給与総額)の変化率

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出所:厚生労働省「毎月勤労統計調査」

日本銀行は3月の金融政策決定会合で、2%の物価安定の目標の実現が見通せる状況に至ったと判断し、異次元緩和政策に幕を下ろした。今後は短期金利を主たる政策金利とし、経済物価見通しが変更される場合や、見通しは不変でもその蓋然性や上振れ・下振れリスクが変化した場合に政策金利の変更を検討するという、かつての金融政策運営方法に戻ることが示された。

今後の金融政策を考える上で、気になるのが消費の弱さだ。日銀は、春闘での賃上げの第1回回答が想定以上であったことなどから消費は持ち直すと考え、足元の消費の弱さは賃金と物価の好循環を妨げないと判断したのだろう。

春闘の最終結果が日銀の想定よりも強い場合には、上振れリスクも生じ得る。他方で、春闘の大幅賃上げが中小企業まで広がらない場合には、消費が持ち直さない可能性があり、日銀の見通しには下振れリスクもある。

もっとも、春闘で実質賃金が上昇に転じた場合にも昨年の下落分2.5%を取り戻す程度と想定され、消費が持ち直さない可能性がある。異次元緩和前の20131月から今年1月までに、10.2%の実質賃金の低下を経験している中、3月の世論調査では春闘で実質賃金は上がらないとの回答が大勢を占めた。この見方を変えるには、足元の春闘の賃上げ率では力不足だと思われるからだ。

今回の賃上げが想定以上となったのは、若手やIT人材など、人材不足の深刻化の影響が大きい。内外で労働の流動化が進む中、必要な人材を確保し、維持するためには大幅な賃上げが必然であった。なお、国内消費は弱含みでもインバウンド需要などに支えられて、大幅な賃上げが想定以上のサービス価格・消費者物価の上昇をもたらす可能性も否定できない。

これまでのような、早過ぎる利上げは遅過ぎる利上げよりもコストが大きいという考え方は変えなければならない。「普通」の金融政策運営に当たっては、上振れ・下振れリスクに対して中立的な評価を行い、経済物価見通しとその蓋然性の程度に応じて政策運営が行われることを期待したい。


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