コラム  2022.09.05

求む「仲人役」―「成長と分配の好循環」の潤滑油として

須田 美矢子

日本の経済成長率、労働生産性上昇率が低下傾向にある中、岸田内閣は「新しい資本主義」を掲げ、新陳代謝と多様性に満ちた裾野の広い経済成長と成長の果実が隅々まで行き渡る「成長と分配の好循環」を早期に実現するとした。「実行計画」も示されたが、課題は網羅的な政策の実行力と有効性だ。

大企業と中小企業間などに大きな格差があると、一部の企業が成長力を高めてもその波及効果はあまり期待できない。実際、中小企業白書によると、大企業と中小企業の一人あたり労働生産性には大きな差があり、中小企業のそれはほぼ横ばいで、大企業との差が徐々に拡大している。大企業と中小企業の資本装備率の差も非常に大きい。中小企業は日本の企業数の99.7%、雇用の7割を占めるのでマクロ的に無視できる存在ではなく、裾野の広い成長を実現させるには、中小企業の労働生産性の底上げを直接行う必要がある。ただ、3月に策定の「中小企業活性化パッケージ」では、「中小企業は成長と分配の好循環のエンジン」とあるが、それは難しいだろう。

日本全体の労働生産性向上には、産業間・企業間の資源の再配分効果も重要だが、それはあまり出現しておらず、この点がもっと大きな問題だ。日銀スタッフの分析によると、中小企業の中で低生産性企業のシェアが上昇傾向にある。資源配分のミスマッチが散在し、拡大さえみられる中、「成長と分配の好循環」の早期実現のためには資源の再配分を加速化する必要がある。しかし、IT化・デジタル化の後押しがあっても、変化は好まれず、新陳代謝が進まないのが今の日本だ。

岸田内閣が重視している「人」からみても、ミスマッチは顕著だ。労働力調査によると、足許、非労働力人口のうち求職活動はしてない就業希望者が253万人、正規雇用を望んでいる非正規雇用者は203万人だ。また、厚生労働省によると、新規就職者の3年以内の離職率は3割以上で、事業所規模が小さいと5割を超える。職業間ミスマッチ指標も高止まりしているようだ。「人」のミスマッチの改善に、市場による調整や就職支援サービスの利用など既存の枠組みでは不十分だということだ。労働環境の底上げには、求人側と求職側を引き合わせるだけでなく、両者間のミスマッチの解消に片方だけでなく両方の歩み寄りを求める「仲人役」が必要ではなかろうか。

特に生産性の低い中小企業の求人と求職のミスマッチの解消に一役買ってほしいのが、このような「仲人役」だ。例えば諸事情により自宅で仕事を望む求職者に対して、求人側が事務作業を切り出せるように手助けし、仕事に必要なスキルを求職側に示すとともに、それを学ぶ機会を紹介するといったことができれば、企業側も生産性改善に一歩踏み出すことができ、求職側もスキルアップでより高い賃金で仕事ができる。このように「仲人役」は賃金の上昇と人的資本蓄積を促し、好循環の潤滑油になりうる。この「仲人役」には、第一線から退き、人生経験もビジネスの経験も豊富で、ある程度ITがわかるシニア層に、社会貢献としての出番を大いに期待したいところだ。


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