コラム  2021.09.08

「フェアな競争」について考える

須田 美矢子

フェアでオープンで、競争的な市場が長い間米国経済の要であったが、過度の市場集中によってそれが脅かされている。バイデン大統領はこのように指摘して、7月に競争を促進するための大統領令を出した。そこではフェア、アンフェアという言葉が合計40回も繰り返されており、「フェアネス(公正)」が競争を促進する際のキーワードであることがわかる。ただこれが何を意味するかは必ずしも明白ではない。

フェアで思い出すのが35年前の抜本的な金融改革(日本版ビッグバン)の取り組みだ。そのときの3原則がフリー、フェア、グローバルであった。フェアは透明で信頼できる市場にすることとされたが、取引ルールを考える上で拠り所となる公正の概念は示されなかった。それについては、取引機会の平等の保障、あるいは、「より効率的な資源配分」を達成しうる取引環境を整備すること、というとらえ方が、日銀での研究会で示されたが、競争について考える場合、現在でもこの捉え方が基本的には有用だろう。ただ、大統領令で問題視されたビッグテクノロジー企業については、この公正の概念をものさしにはしにくい。企業が多様化・複雑化し、データを囲い込み、デジタル広告をはじめ透明性が低く、取引機会の平等が保たれているかどうかの評価がそもそも困難だからだ。また、ネットワーク効果を実現させるには巨大化もある程度必要だが、効率性向上の観点から過大かどうかの判断もむずかしい。したがってこの概念に従って不公正だと評価し、実際に公正性を向上させるのは容易ではない。

現時点では、研究会報告にも記されていた実定法上の「公正」概念、つまり、「ある当事者が他の当事者をねたまない状態にあるという意味で、双方の地位が『平等』に扱われる場合をもって『公正』 とする」というとらえ方が、実効性の観点からは、これら企業の公正性評価のものさしとしてふさわしいのではなかろうか。

日本でも、大規模デジタルプラットフォーム事業者について、取引の公正性に課題があるということから、2月に「特定デジタルプラットフォームの透明性および公正性の向上に関する法律」が施行された。ここでは、利用事業者からの合理的な要請に対応する体制・手続きの整備が求められており、これによって苦情・不満などが解消すれば、上記の意味での公正性は向上しうる。ただ、規制の大枠を法律で定めつつ、詳細を事業者の自主的取り組みに委ね、国の関与や規制は必要最小限のものとするという建付けでは、公正性の向上の実現はおぼつかないように思う。実効性を高めるには、政府はもっと前面に出て、事業者との直接対話を強化することで、自らの知識・理解力を高め、モニタリングに力を発揮する必要があろう。

ビッグテクノロジー企業は、決済コストを下げるべく決済に本格参入を考えているようだ。そうだとしたら既存の決済の担い手とのフェアな競争の観点に加え、決済・金融システムの安定など、政府・日銀の政策目標達成を妨げないために、規制・監督が必要となろう。政府は先を見通しつつ、内外のビッグテクノロジー企業とのかかわりをもっと強めておく必要がある。


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