台湾の頼清徳総統は11月25日、米紙 The Washington Post に「I will boost defense spending to protect our democracy(私は国防予算を増やして我々の民主主義を防衛する)」と題する寄稿文を掲載した。総統は同稿で、台湾政府が引き続き国防力強化に取り組む方針を示し、近く総額400億ドル規模の特別予算案を提出する考えを明らかにした。台湾の民主主義を守るという政府の約束を改めて強調した形だ。
寄稿文によると、政府は国防産業への投資に加え、ハイテク分野の発展を推進し、対空防衛システム「台湾の盾」の整備を加速する方針を示した。また、価値観を共有する国々との協力を拡大し、インド太平洋地域における共同抑止の枠組み強化を目指すとしている。さらに、国内外のコミュニケーションや政府・軍・民間団体の連携を強化し、社会全体で人為・自然災害に対応する能力を高める必要性にも言及した。
頼総統は、「実力によって平和を維持する」という理念は台湾とアメリカの共通認識だと指摘。台湾は今後も、穏健かつ確固たる行動を通じて国家主権と民主主義を守り抜く姿勢を示した。
頼総統はまた、台湾が信頼できるパートナーや盟友との安全保障協力を一層強化する方針も強調した。最近、日本、米国、欧州、韓国、ニュージーランド、オーストラリア、そしてG7による声明が地域の抑止強化を明確にしたことに触れ、台湾海峡の平和維持に対する国際社会の継続的な支持に謝意を示した。今後は海上安全保障、サイバーセキュリティ、強靭性の向上など、幅広い分野での交流をさらに拡大するとしている。
中国との関係については、「緊張を高める行動の代償を増やし、緩和に向けた条件のハードルを下げることが、双方の安定を確保する鍵となる」と述べた。また、「衝突のリスクは平和追求のコストを上回らなければならない」との原則を示し、これが台湾の国防改革と現状維持の決意に反映されていると説明した。民主主義と自由は譲れないとした上で、頼総統は「幻想に基づく対話ではなく、現実的な対話による溝の解消を目指す」と述べ、台湾の安全と主権を守る決意を改めて示した。
一方、米在台協会(AIT)のレイモンド・F・グリーン台北事務所長(大使に相当)は、頼総統が発表した1兆2500億元(約6兆2500億円)の国防特別予算を歓迎する声明を発表した。所長は、台湾が欧州、日本、韓国などのパートナー国と同様、国防分野に重要な投資を行うことは、世界の平和や繁栄を脅かす要因を抑止するうえで不可欠だと述べた。米国は台湾の抑止力を高める非対称戦力の迅速な獲得を支持しており、これは「台湾関係法」および長年にわたる米国の確固たる承諾と一致すると強調した。
さらに所長は、国防予算増額が台湾の各政党から支持を得ているとし、「台湾支持は米国の超党派の優先事項であるように、台湾でも政党間で共通認識が形成されることを期待する」と述べた。台湾の民主主義や市場経済の維持、両岸対話の環境整備、そして国際社会からの支持獲得においても、防衛力の向上が不可欠だと指摘した。所長は結びに、両岸の隔たりが脅迫のない環境で平和的に解決されることは、国際社会全体の利益にかなうと述べ、今回の発表は台湾海峡の平和と安定を抑止力の強化によって維持していく台湾の姿勢を示すものだと評価した。
所長の見解に反して、実際には台湾の野党の反応は冷ややかだ。
11月27日、立法院の国民党会派(議員団)で羅智強書記長らが記者会見を開いた。羅書記長は「頼総統は台湾を次のウクライナにするつもりなのか」と問いかけた。国民党は、戦備の整備は認めつつ、平和への投資こそ台湾の生存と発展の基盤だと主張している。羅書記長は、国民党政権時代は3000億元だった国防予算が頼政権では9400億元以上に膨らみ、さらに1兆2500億元を追加しようとしていると指摘。その結果、中国軍機の中線越えや軍事演習の常態化という「屈辱」を招いていると批判した。頼総統が両岸関係を危険な軍事衝突へ導き、巨額予算で国民を麻痺させていることこそ問題の核心だと述べた。
一方、民衆党の立法院会派(議員団)は11月26日、国防予算の合理的な引き上げには賛成すると表明した。ただし、政府は国民を脅したり、不安を煽ったりしてはならないと強調。軍事費拡大が長期的な政策となるのであれば、財政的に本当に実現可能なのかを明示すべきだと指摘した。さらに、頼政権は台湾社会を「最後に知らされる者(蚊帳の外に置かれる存在)」として扱うべきではないと批判した。
12月5日の立法院本会議では、頼政権が提出した国防特別予算案は採決に至らなかった。国民党と民衆党が連携して議事入りを阻止し、審議そのものが進められなかった。行政院は到底納得できないとして強い遺憾を示した。続いて9日の議事手続き委員会に草案を再提出したものの、両野党は再び歩調を合わせて阻止し、立法院での審議は依然として実現していない。