外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2021年11月24日(水)

デュポン・サークル便り(11月23日)

[ デュポン・サークル便り ]


秋を完全に通り越してすっかり冬の陽気になってしまったワシントン。この1週間は、ほとんど毎朝、朝の気温は零下。でも強風にも拘わらず、まだ木の葉は完全に散ってしまっていないので、まだ少しだけ残っている紅葉を楽しむことができます。今週の木曜日はアメリカ人が家族で祝う最大の祝日といっても過言ではないサンクスギビング。昨年、コロナウイルスでちゃんとお祝いできなかった分、今年は、家族や親戚と昨年の分まで取り返すべく盛大に祝う人も多く、すでに道路の渋滞や空港の混雑が週末から始まりました。家族と日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

先週から今週にかけて、内政問題ではバイデン大統領にとって比較的良いニュースが続きました。一つは、前回の「デュポン・サークル便り」でもお伝えしたインフラ投資法案。15日(月)に、バイデン大統領が、民主、共和両党の上院議員同席の下で法案に署名、にぎにぎしい署名式を行い、法律として成立することとなりました。バイデン大統領は、この法案がいかにアメリカ経済の底力を回復させるのに役立つかをアピールしたいところです。が、一方でこの法案に賛成した共和党上院議員13人の中には、殺人予告を受ける議員も出ているとか。。。。

もう一本の「ビルド・バック・ベター」法案も、ようやく先週19日(金)に下院で可決され、法案成立に向け重要な一歩を踏み出しました。とは言え、油断は禁物。最終的にこの法案を成立に持ち込むために必要な歳出規模や内容をめぐるすり合わせは、これから上院と下院で本格的な手続きに入りますが、規模と内容どちらの点をめぐっても、まだ民主党内の中道派と左派の間では、意見の隔たりが存在するからです。

内政面で比較的良いニュースが続く一方で、トランプ前政権時代にアメリカ国内の分断がより深まったことを感じさせるニュースも相次ぎました。

一つは、昨年8月にウィスコンシン州キノーシャで起こった事件をめぐる裁判です。黒人青年のジェイコブ・ブレークさんが警察官に射殺されたことに抗議する集会で左派と右派の団体が正面衝突。州軍250名が派遣される騒動に発展したのですが、この集会に参加していた17歳の白人ティーンエイジャーのカイル・リッテンハウスさんが、集会で対立した白人3名に向けて発砲し、うち2人が死亡、もう一人が重傷を負ったのです。リッテンハウスさんを始め、この事件の関係者が全員、銃を携行していたことから、裁判の焦点はリッテンハウスさんの行動が正当防衛だったかどうかに絞られました。この裁判の判決が19日(金)にありましたが、陪審員は全員一致でリッテンハウスさんの正当防衛という結論に達し、無罪の判決となりました。ですがこの判決をめぐっては、左派の団体が猛反発。抗議集会に発展したのです。

また、トランプ政権発足後1年ほどしか経っていない20178月にバージニア州シャーロッツビルで右派勢力が「Unite the Right」という名の集会を実施した際に、この集会に抗議して集まっていた群衆の中に右派集団の一人が車で突っ込み、女性一人が犠牲になった事件をめぐる民事裁判の行方も話題となっています。この集会を企画した白人優越主義者グループのメンバーで、すでに刑事事件では有罪が確定、終身刑の判決を受けている男性を含む数名に対する民事訴訟であるこの裁判、陪審員が裁判官に対し「全会一致の評決に到らない可能性がある」旨を伝えたことが、22日(月)に大きなニュースとなりました。

私の周りのアメリカ人からは、トランプ政権成立前には単に保守的でしかなかった友人や親戚がトランプ政権の4年間でどんどん先鋭化し、銃の扱いにも慣れていない人が銃や弾薬を買い込み、久しぶりに遊びにいったら、家の中が銃で溢れていて怖くなった・・・という話を聞きます。トランプ前政権が残した「アメリカ国内の分断」という負の遺産、乗り越えるのは容易ではなさそうです。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員