ワーキングペーパー  グローバルエコノミー  2024.04.05

ワーキング・ペーパー(24-007E)New empirical findings about the interaction between Public Employment Agency and private search effort

本稿はワーキングペーパーです。

経済理論

失業者が仕事を自分で探すのには限界があり、公的な支援が必要であるという認識は多くの政府で共有されている。公的支援の積極性という点でヨーロッパは際立っているが、特にドイツの例が有名である。当時のシュレーダー首相は2002年にフォルクスワーゲンの労務担当役員だったペーター・ハルツ氏に依頼し、「ハルツ委員会」を立ち上げ、「ハルツ改革」と呼ばれる一連の改革を進めた。この改革から教訓を得るためにはその背後にある経済学的メカニズムを理解することが必須である。

本論文では、ハローワーク改革を中心に行われたハルツ改革IIIに着目し、労働市場改革が市場のパフォーマンスにどのような影響をもたらしたかについての経済分析を行う。ハルツ改革IIIでは、ハローワーク機能を抜本的に強化し、数値目標の設定や成果の説明責任を求め、民間との競争促進を重視した。これがどのようなメカニズムを通してなされたかについて明らかにする。

まず、ハルツ改革IIIの影響を識別するにあたって、改革がドイツ国内で一斉に行われたのではなく、地域ごとに時期を異にして行われたことに着目し、自然実験の手法を用いる。分析結果によると、ハルツ改革IIIはハローワークによる職業紹介を減らす半面、全体として失業者の雇用確率を引き上げた(つまり、失業者が雇用される確率はハローワーク以外のチャネルのほうで増えていた)。さらに、改革によって、新規雇用者の平均賃金が上昇したことが明らかになった。

次に、これらの推定結果を理論的に分析するため、理論モデルを構築する。ここでの理論的な挑戦は、失業者のサーチ活動が増えているのに、なぜ賃金が上がっているのか、という点である。というのは、既存の研究では逆を予測しているからである。モデルでは次の特徴をもつ均衡を導出する。まず、ハローワークでは求職者は職業紹介によって機会を得るため、企業の側からすると応募者確保のために高い賃金をつける必要がない、つまり競争が少ない。これに対し、サーチ市場のほうでは競争があるため、応募者を確保するために企業は比較的高い賃金を提示する必要がある。求職者の立場からみると、ハローワークを通した職業紹介はサーチコストがかからないが低賃金である反面、サーチ市場に出るとサーチコストがかかるが高賃金の仕事が見つかるかもしれない。よって、サーチ市場にはサーチコストを十分に補うだけの高い雇用確率が見込まれる求職者が集まる(セレクション効果と呼ぶ)ことになり、それが企業に高賃金を提示してでもサーチ市場を通してリクルートする誘因を与える。この状況下でハローワークでの職業紹介の数が減ると、サーチ市場で見込みのある雇用者を雇用できる確率が上がるため、企業の競争度が上がり賃金を引き上げるのである。

論文ではこのセレクション効果が実際にハルツ改革の時に企業間競争及び平均賃金の上昇に有意に働いていたことを検証し、実証的に支持する結果を得ている。

全文を読む

ワーキング・ペーパー(24-007E)New empirical findings about the interaction between Public Employment Agency and private search effort