メディア掲載  国際交流  2024.01.19

能登地震の復興支援に効果絶大、中国由来の対口(たいこう)支援を昇華させた全国自治体

世界が評価する日本の魅力と将来リスク

JBpress2024118日)に掲載

人材交流

1.日本の人気の高まり

コロナ禍の鎮静化を背景に日本を訪れるインバウンド旅行客の増加が目立っている。

2023111月累計では2233万人と依然コロナ前の2019年(2936万人)を2割以上下回っている。

しかし、単月で見ると、10月は252万人(2019年同月比+0.8%)、11月は244万人(同+0.0%)とコロナ前の水準に戻っている。

コロナ前は国別でトップだった中国からの旅行客は、2023111月累計では211万人と2019年比-76.2%、11月単月でも-65.6%と依然低迷が続いているにもかかわらず、訪日客数はここまで回復した。

この間、日本の不動産を購入する外国人の増加も目立つ。

11月にオープンして大きな話題となっている麻布台ヒルズの上層階にある高額マンションは100億~300億円と言われているが、その多くは外国人富裕層が購入したと聞く。

また、豊洲周辺の東京湾を望む高級タワーマンションを購入する人の12割が中国人であると報じられている。

このように、訪日旅行でも不動産購入でも日本を好む外国人の増加が目立っている。

これは円安の影響もあって、日本の飲食、宿泊などの旅行代金が外貨建てで大幅に低下していること、不動産が海外主要都市、特に日本から近い、香港、上海、北京等に比べて割安であることが主な理由である。

とはいえ、価格の比較であれば、中国のホテル代は平均的に東京より安価であるほか、ソウルの不動産は東京より割安である。

それにもかかわらず、中国は旅行客の減少に悩んでおり、ソウルの不動産は東京のマンションほど外国人の注目が集まってはいない。

こうした事実から見て、日本の魅力は価格面以外の要素も大きいと考えられる。

中国人の友人に日本の魅力について聞くと、山紫水明で緑豊かな観光地、温泉、食事、低価格ながら良質なサービス、魅力的な各種土産品(日用品、化粧品、医薬品、趣味のグッズ等)など、日本滞在は多くの魅力があると指摘する。

こうした様々な日本の魅力のベースにあるのが、おもてなし、思いやり、交通やホテルなどの規律正しく丁寧なサービスと高い信頼性、そして治安の良さなど日本人の日常的な心遣いや規範である。

これらは日本の伝統精神文化に基づいており、仁義礼智信、慈悲心、利他主義などに基づく人格形成教育がその背景にある。

こうした人格形成を重視する道徳教育は戦後の学校教育における道徳の授業では力点が置かれていない。

しかし、江戸時代に寺子屋や藩校などを通じて広く国民全体に道徳教育が徹底され、それが日本人の心に深く浸透し、日本の精神文化として定着した。

それが今も家庭教育、企業・政府組織における人材教育などを通じて生き残っており、世界中の人々が評価する日本の魅力の土台となっている。

2.日本の魅力の一つ:異文化吸収の柔軟さ

こうした心遣い、規範といったモラルを重視する姿勢に加え、もう一つの日本の魅力は外国の異文化を柔軟に吸収し、日本流に進化させ、社会の中で醸成する力である。

古くは漢字を中国から輸入し、そこから平仮名を創り出した。

また、仏教、儒教、道教、禅などを輸入し、日本古来の神道とともに、東洋思想に基づく伝統精神文化を醸成した。

この伝統精神文化が上記の日本の魅力の源流である。

明治維新後の近代社会の形成過程では近代西洋社会思想やそれに基づく政治経済社会制度、科学技術等を積極的に導入し、国家運営の制度基盤とした。

このように日本は古来、外国の優れた精神文化や技術を積極的に取り込み、政治社会制度の基盤形成に活用することによって、目覚ましい発展を遂げてきた歴史を持つ。

こうした日本の外国文化の吸収、応用力が今回の能登半島地震でも生かされた。

それは全国各地の自治体による「対口(たいこう)支援」である。

「対口支援」とは、20085月の中国の四川大地震で中国政府が採用した復興促進策である。

中国政府は、被災した市町村の復興支援を北京市、上海市、広東省など中国全土の省や市に責任を持たせ割り当てた。

被災地を30程度の地域に分け、北京市など被災しなかった省や市が、割り当てられた地域ごとに救援・復興に当たった。

この方式がうまく機能し、四川大地震からの復興は迅速かつ円滑に進められた。

筆者は四川省に出張した際にその施策の有効性について現地の政府関係者から話を聞かされていた。

そこで20113月に東北大震災が発生した直後、日本でもこの方式を採用するよう提案した(「全国自治体に割り振れ」読売新聞「論点スペシャル」2011318日掲載)。

筆者以外にも日米両国の様々な分野の専門家がこの中国の「対口支援」を導入すべきだと日本政府に提言した。

しかし、大震災、大津波、福島原発事故など未曽有の事態が次々と発生する大混乱の中、当時の日本政府にはそうした新たな救援・復興方式を採用する余裕はなかった。

それから約13年後の今回の能登半島地震では地震発生直後から「対口支援」方式による被災地救援施策が見事に機能し、全国各地の地方自治体職員が能登半島各地の被災地に派遣された。

筆者の記憶では中国の四川大地震で採用された「対口支援」は初の試みだったこともあり、地震で破壊されたインフラや建造物の再建等地震発生後の復興支援が中心だった。

それに対して、今回の日本型「対口支援」はそうしたインフラ再建開始の前段階である震災直後の緊急対応支援から導入された。

そこには2016年の熊本地震以降における「対口支援」の経験も生かされている。

具体的には、避難所の運営、仮設トイレ設置やごみ処理支援、物資補給、医療・介護支援、罹災証明書の申請受付等各種行政事務、ライフラインの復旧などである。

被災地の地方自治体は職員自身が被災し、通常の勤務体制を組むことができないうえ、震災に伴う様々な非日常事務への対応に迫られ、行政機能がマヒすることが不可避である。

こうした事態に対して、中国由来の「対口支援」を導入し、そこに過去の震災時等の救援・復興の経験の中で培われてきた日本独自の緊急支援体制の構築を融合させ、見事な成果を上げることができた。

そこに心遣いや規範など自発的なモラルに基づく被災者同士の草の根協力が加わったことは言うまでもない。

このように今回の能登半島地震においても、日本古来の柔軟な異文化吸収能力が発揮され、震災救援・復興方式のモデルが示された。

能登半島地震の翌日に発生したJAL(日本航空)機と海上保安庁機との衝突事故発生後、JAL機の乗客・乗員全員が無事に脱出できたのも乗客全員が高いモラルで乗務員の指示に従ったことが大きな要因だったと言われている。

今年は年初から非常に厳しい事態に直面しているが、その中で日本の良き精神文化が失われていないことが示されたことは様々な苦難に立ち向かう人々の心の支えとなることを期待したい。

3.日本の魅力の後退懸念

しかし、以上述べたような日本人の精神文化に根差す日本の魅力が今後も長期的に続く保証はない。

むしろ、最近はその日本の魅力の土台となっている心遣いや規範を重視する精神は長期的に後退する傾向が続いているように見える。

「いじめ防止対策推進法」という法律が成立して10年経つにもかかわらず、過去10年の間にいじめ認知件数が3倍以上になるなど、増加傾向に歯止めがかかっていない(「ルールだけでは防げないいじめ、社会の分断、米中摩擦JBpress2023718日掲載)。

それに加えて、愛着障害や精神障害で学校に通えない子供たちの引きこもりの人数が増加し続けていると聞く。

内閣府の調査によれば、日本全体では1564歳の人口の約2%、146万人が引きこもり状態にある。

学級崩壊、モンスターペアレンツの問題も未解決で、小中学校の教師の労働負荷の重さは改善が進んでいない。

本来、日本の精神文化の土台となる人格形成教育の重要な基盤である学校教育がこの状況では、江戸時代の人格教育で培われた日本の良き精神文化の基盤は確実に弱体化していく。

このままでは本稿で述べてきた日本の大切な精神文化の魅力が失われるのは時間の問題である。

これに歯止めをかけるのが学校、家庭における教育、そして企業、政府等の組織における人材育成教育である。

最近の出来事を振り返ってみても、有名企業の品質検査に関する虚偽報告、保険金の不正請求、性加害問題とそれに対するマスメディアの沈黙、政党派閥の裏金問題など様々なモラル上の問題が指摘されている。

こうした問題が発生する原因として、コンプライアンス体制の機能不全など、ルールや制度上の不備が指摘されている。

しかし、企業経営の危機管理の専門家は、「いくらルールを整備してもそれだけでは有効な対策とはならない。本質的な問題解決に必要なのは組織風土の抜本的改善である」と指摘する。

組織風土の抜本的改善のためには、その組織の構成員一人ひとりがモラルを共有し、規範意識に従って自発的に規律を守ることが必要である。

学校のいじめの問題や引きこもりへの対応もルールや制度で対応するだけでは不十分であることは明らかになっている。

これらの問題に対しても学校教育等において人格形成教育に注力し、心遣いや規範を重視するモラルを各自が身に付けられるようにすることが大切である。

古来、日本が外国文化を吸収し、日本独自の精神文化を醸成した原点は儒教、仏教、道教、禅などに基づく人格形成教育にある。

世界中から評価される日本の魅力や甚大な自然災害にも立ち向かう精神文化をこれ以上後退させず、再興していくためには、学校教育、企業・政府機関等における人格形成教育の基盤整備が急務である。