政策提言  グローバルエコノミー  2023.07.18

食料安全保障を危うくする食料・農業・農村基本法の見直し

矛盾の体系の政策審議会「中間とりまとめ」

農業・ゲノム

政府は、食料安全保障強化を名目として、食料・農業・農村基本法を見直す。5月末、農林水産大臣の諮問機関である食料・農業・農村政策審議会の「中間とりまとめ」が公表された。これに沿って来年の通常国会に同法の改正法案を提出する予定である。

終戦直後の食料難からわかるように、食料危機が起きて最も利益を得るのは農家を含めた農業界である。その農業界が、食料危機が起きないようにするための食料安全保障や食料自給率向上を最も熱心かつ声高に主張してきた。農業保護の増加に役立つと考え、利用してきたのである。

今回も、「中間とりまとめ」は、日本の経済的地位が低下して穀物等を買い負けるようになっているとして食料危機が起きる可能性を強調し、麦などの国内生産の拡大を要求している。しかし、危機が生じた際、ほとんどの国民を餓死させかねない政策には触れようとはしない。真に国民のために必要な食料安全保障政策を講じようとすると、農業村の利益を損なうからである。

WTO交渉がとん挫し、TPP交渉でも農産物関税の大幅な引下げは回避できた。「中間とりまとめ」は、貿易自由化に対応するため農業の構造改革を強調した1999年の食料・農業・農村基本法から、1960年代から80年代にかけて実施された、価格支持による農家保護、農家丸抱えという政策に、時計の針を戻そうとしている。

価格を上げれば貧しい消費者の家計を圧迫する。通商交渉で農産物の関税削減に対応することは、ますます困難となる。価格を下げつつ農業や農村を発展させようとする政策は検討されない。農業村の利益を損なうからである。

これまでの農政も今回の「中間とりまとめ」も矛盾の塊である。それは、本来国民や消費者のための食料安全保障の主張を、農業界の一部の既得権益のために利用しようとするからである。実際に行われる政策は、国民の利益を大きく損なうものとなる。農業村は食料安全保障を叫びながら、食料危機の際に多数の餓死者を出すような政策を推進してきたのだ。

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食料安全保障を危うくする食料・農業・農村基本法の見直し