メディア掲載  財政・社会保障制度  2011.02.14

地域医療は根本からつくり直せ

『医薬経済』 2011年2月1日号に掲載

――税と社会保障の一体改革を菅政権は掲げています。
松山 民主党が高齢者医療制度改革で、70~74歳の受診時患者負担を法定通り2割にすることに反対した。そもそも、この世代は保険料負担とかかっている医療費(受診時患者負担)も低い。絶対額で負担が軽いので、特例だった1割負担を2割負担に戻すのだが、この改革をしないのに、税と社会保障の一体改革などできはしない。医療政策でも、(地域医療を救済するための)地域医療再生基金の設置はナンセンスだった。各都道府県に均等にバラ撒いただけで、お金が切れたら地域医療は元に戻る。やるべきことは理想的な地域医療を追求するモデル事業だ。内閣府は当初、このような構想を持っていたが、選挙対策で均等配分になってしまった。

――地域医療の再生に必要なのは。
松山 国立病院機構のように病院を水平統合するのではなく、100万人前後の地域で医療圏を形成し、非営利の医療事業体を設置すべきだ。この事業体が、人口と疾病構造に応じて、急性期病院から在宅介護まで施設を配置する。施設は事業体を中心に垂直統合される。この事業体をいくつか形成し競争(優秀な医師の確保や治療実績)させれば、医療の質も上がる。垂直統合が必要な理由のひとつは、医療政策によって財源が急性期医療あるいは在宅医療に回ったりするが、仮に財源が移っても事業体がパッケージで医療を提供していれば、財源配分に影響されないこと。医療費全体が増えている限り増収増益となる。もうひとつ重要なのは、施設がダウンサイジングできること。民間病院も自治体病院も経営が苦しくなるのは、昔つくった器に合わせて何とかしようとするから。単独の施設で医療技術の進歩や疾病構造の変化に応じた経営戦略を策定することは不可能だ。東大病院をもってしても、患者が必要とする医療を全部はできない。事業体のもとに、人口に応じて必要なニーズの施設をつくるべきだ。立派な建物の病院が外来をするのもナンセンスで、坪単価の安い診療所で外来をすれば安く済む。各国でやっていることだ。

――政府は「医療を経済成長分野に」と訴えていますが。
松山 なぜ医薬品と医療機器で貿易赤字が1兆円を超えているのか。理由はさまざまだが、一番大きいのは治験の部門が弱く、医薬品などの開発で協力できるインセンティブが医師にないからだ。なぜか。個々の事業体が小さく、(臨床から研究まで行う)医師が忙しすぎる。1000億円クラスの地域単位のメガ事業体をつくれば、事業体は経営のためにも研究を呼び込むようになる。グローバル競争を考え、医師にも治験に専念してもらう環境をつくることができる。

――大学病院の位置づけは。
松山 日本の医療のネックは学閥。学閥が存在するのは附属病院があるためだ。国立大学病院は運営交付金を削られており、いずれ附属病院を持てない時期がくる。医学部の設置要件から附属病院の保有を外せば、(附属病院が)公立病院と経営統合できる。基礎研究は大学、臨床研究と教育は提携先である事業体と共同で行う仕組みにすべきだ。これは、ハーバード方式で、大学の財務リスクも減り、学閥の解消につながる。 (医薬経済 森下氏)