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「過剰米対策は必要か」
メディア掲載 グローバルエコノミー 2010.08.25
「過剰米対策は必要か」
NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2010年8月10日放送原稿)
山下 一仁
研究主幹
1. 現在、農業界では過剰米対策が問題となっているようですが、解説してください?
米消費の減少が続いています。2009年7月から2010年6月まで総消費量は前年から14万トン減少して810万トンになりました。さらに、農林水産省は、2010年7月から1年間の米の需要は前年に比べて5万トン減少して805万トンになるという見通しを示しました。このように消費が減少したので、政府がいざという時の備蓄用に持っている在庫とJA農協などの民間が持っている在庫を合計した量は、2010年6月現在、前年に比べて18万トン増加し316万トンになっています。農林水産省は政府備蓄量を100万トンに固定していますから、JA農協などの民間在庫が増加していることになります。消費が減少すると在庫はさらに増えます。このため、JA農協は過剰米対策を政府に要求しています。
2. 米の在庫が増えることにどのような問題があるのでしょうか?
在庫が増えると、農協の保管経費が上昇し、農協経営を圧迫します。このため、いずれ在庫を処分しなければならなくなります。そうすると米価が下がります。農協の米の販売手数料は米価に対応しているので、米価が下がると農協は手数料収入を確保できなくなります。こうなっても農協経営は圧迫されます。農協は過剰圧力によって、60キログラム当たりの米価が1年前の1万5千円から1万4千円へ下っていることも問題視しています。政府に過剰在庫を買い入れさせ、海外への援助や家畜の餌に処分させれば、在庫も解消できるし米価も維持できるので、農協の負担はなくなります。
そもそも、他の農産物で過剰在庫が政治問題化するということはあまり起きません。野菜を例にとると、生産が増えたり減ったりしても市場で処分されるので、価格が下がったり上がったりますが、在庫の増減はありません。米について過剰在庫が生じるのは、とにかく米価を変動させずに維持しようとするからです。需要と供給を価格の変化で調整するのではなく、生産や流通在庫という供給面で調整しようとするのです。
農産物については、わずかに供給が減少しただけで価格が大きく上昇する一方で、わずかに供給が増加しただけで価格は大きく減少してしまうという特徴があります。平成15年産では生産が10%減少しただけで米価は30%も上がりました。逆に平成16年産では生産が9%増えただけで米価は25%低下しました。量の変化以上に価格は変化するのです。そうであれば、売上高は価格と生産量をかけたものなので、生産量を少なくして価格を引き上げた方が売上高を高くできます。これが生産や流通在庫という供給面を調整したり操作することによって価格を維持しようとした理由です。生産面では減反政策によって米の生産を減少させることで米価を維持してきました。そのうえで、生産された米よりも消費が減少してしまうと、在庫を処理するのではなく、在庫を一時的に増やして米価を調整し、さらには減反を強化して翌年の生産を減少させるという方法をとってきました。自民党は今でもこのような主張をしています。
3. 農林水産省はどのような立場なのでしょうか?
米価もそれほど下げっているわけではないし、在庫も極端に増えているわけではないとして過剰在庫の存在自体に否定的だといわれています。
農林水産省の政務3役は、農家が今回民主党が導入した戸別所得補償を受け取るためには減反参加が条件なので米価は下がらないだろうし、下がっても戸別所得補償が増額されるので農家は困らないと主張しています。これは筋が通っています。しかし、民主党の農業関係議員は自民党と歩調を合わせて、米価維持対策が必要だと主張し始めています。
また、過剰米対策を否定しているにもかかわらず、農林水産省は市場から買い入れた米が古くなると売ってまた市場から買い入れるという現在の備蓄方法ではなく、現在の100万トンにさらに100万トン備蓄量を増やして、この増やした部分は市場から完全に隔離するという棚上げ備蓄を行うことについて、審議会の意見を求めています。審議会では農協出身の委員は賛成しましたが、財政負担が増えるという反対意見が強く出されています。これはいっときの過剰在庫を処理するだけで、恒常的な消費減少に対応できるものではありませんし、大不作が生じない限り、古くなった備蓄米は財政負担によって家畜の餌などに処分しなければならなくなります。食管制度の時代には過剰米処理に3兆円もかけました。農林水産省の試算でも年間520億円必要だとされています。
4. どうすればよいのでしょうか?
米価はこの10年間で25%も低下しました。減反を拡大しても米消費の減少に追いつかないからです。また、今では減反面積は水田面積の4割にも達っしており、これ以上の減反拡大は困難です。今後は高齢化で一人が食べる量が減少するうえ人口も減少するので、米の総消費量はさらに減少します。米価が下がるということを前提にして、農業政策を展開していけば、輸出など国内の食用以外の需要を獲得できるようになります。1990年代、政府から農家への補助金という直接支払いを導入したEUは、穀物価格を30%引き下げました。これによって、アメリカから輸入してきた餌用の穀物需要を域内の穀物で代替し、3300万トンほど積み上がった在庫を完全に消滅させました。もっともよい過剰米対策は直接支払いと価格の引き下げです。
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